シマノのリールを調べているとよく耳にする「コアソリッドシリーズ」と「クイックレスポンスシリーズ」。この2つは何を意味していて、何が違うのでしょうか?この記事ではこの2つの技術的な違いから、シリーズが二分割されるに至った背景まで、誰が読んでも理解できるようにわかりやすく説明をしていきます。なんとなく知っている方も、全く知らない方も参考にしてみて下さい。
違いを知るために必要な基礎知識
できる限り分かりやすく説明をしたいのですが、この2つの違いを知る上でどうしても知っておいて欲しい知識が2つだけあります。知らない方は名称までは覚える必要はありませんが、「こんなものがあるんだ」というくらいで頭の片隅にでも入れて頂きながら記事を読み進めて頂ければと思います。
「ローター」というパーツ
ハンドルを回すと、スプールの周りをクルクル回転するパーツがありますよね。あれが「ローター」です。「コアソリッド」「クイックレスポンス」の最大の違いは、このローターの違いによるものです。
下記写真の色が着いている部分がローターです

慣性の性質について
中学校で習うあの「慣性の法則」の「慣性」です。慣性の性質を簡単に説明すると、「動いているものが重ければ重いほど、止めるのにはそれ相当の力と時間が必要であり、速度を上げるのにも力と時間が掛かる」という、普段の生活で感じ取れる当たり前の事象の事です。自動車の過積載が法律で禁止されているのも、慣性の性質によるものですね。
<例>走行速度80km/hで同時にフットブレーキを使用した場合時速80キロの場合、定積(定量を積載した場合)では50.3mであった制動距離が、積載量が80%オーバーすると70.3mと、実に20mも長くなります。
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釣りにおけるリールの介在価値
それでは次に、釣りにおける「リール」の意味を考えていきましょう。現在日本ではスピニングリールだけでも、900種類以上が発売されています。使われている技術の違いという事もありますが、それだけ釣りの手法に合わせて日々開発がなされているということです。ここでは大きく2つの釣りのシーンに合わせて、それぞれに求められるリールの機能について説明をします。
大胆に強く巻けることが求められるリール
大きい魚はものすごく引きますので、一度掛かると長期戦に持ち込まれることが多いですよね。そんな時、滑らかな巻き心地で、テコの原理のように少しの力で強く巻けるリールがあると有利です。疲れにくいという事もありますが、せっかく掛かった魚が根にもぐられてラインブレイク・・・なんて事も防げるようになります。
繊細な動きを求められるリール
好奇心旺盛な魚は、突然俊敏に動き出すものがあると「とりあえず口に咥えてみる」という行動にでます。俗に言う「リアクションバイト」というものですね。この習性を活用して魚を釣る時、ルアーを俊敏に動かせるためのリールが必要になります。また、リアクションバイト狙いだけではなく、細かいアクションを加え続けるルアーフィッシングにおいては、操作するリールの動きが素早くルアーまで伝わる方が有利となります。
この2つの機能は表裏一体です。大胆に強く巻けるリールには繊細さはありませんし、その逆も同様です。
こういった釣りのシーンに合わせて、別々の技術が必要だった
もうなんとなくイメージはできたかと思いますが、こういった釣りに合わせて考えられているのが、「コアソリッドシリーズ」と「クイックレスポンスシリーズ」という事になります。それでは早速2つの違いについて解説をしていきます。
コアソリッドとは?
直訳すると、「Core(コア) = 芯」「Solid(ソリッド) = 堅い」なので、「重くて中心まで堅いずっしりとしたリール」というような印象ですね。その名の通り、コアソリッドとは、重く、堅く、そして強いリールのことです。正に大きい魚が掛かったらゴリゴリ巻くために開発された技術というわけです。滑るように巻き上げられるのがこのリールの特徴です。
クイックレスポンスとは?
直訳すると、「Quick response = 迅速(じんそく)な対応」ということなので、仕事ができる営業マンといったところでしょうか。こちらもその名の通りで、釣り人の指示を素直に受け止め、すぐに行動に移してくれる、ジェントルマンなリールのことです。俊敏な動きが求められるルアーフィッシングには持ってこいというわけですね。巻き始めの軽さ・操作性・高感度が特徴です。
クイックレスポンスはシマノの最新技術
2012年に発売された12ヴァンキッシュを起点として、クイックレスポンスは産声を上げました。以降シマノはその他のブランドにおいてもクイックレスポンスの技術を取り入れるようになり、シリーズとして幅を広げていきました。そして、このクイックレスポンスシリーズとの差別化を図るための位置付けとして呼ばれているのが、コアソリッドシリーズというわけです。
- 昔からあるシマノの技術→コアソリッド
- シマノの最新技術→クイックレスポンス
と考えても良さそうですね。
仕組みの違い
ここまでで、大体の違いはご理解頂けたと思います。では次に具体的な技術面での違いについて説明をしていきます。ここで冒頭に記載しました、「違いを知るために必要な基礎知識」が必要になります。
クイックレスポンスの仕組み
先にクイックレスポンスについて説明をします。ここで「慣性の性質」を思い出してください。重量のあるものを動かすのには、それ相当の力が必要という事でしたね。この法則はリールにも当てはまります。回転するローターが重いほど、止めるのも回転させるのにも力と時間が必要です。その逆に軽ければ軽いほど、力と時間は殆ど掛からないという事になります。2012年、シマノはヴァンキッシュのローターを「Ci4+(シーアイフォー プラス)」と呼ばれる、樹脂に炭素繊維(カーボン)を混ぜた素材にする事で、従来よりもローターの重量が軽くなるように設計をしました。その結果、慣性の性質に基づいて「軽やかな巻き心地」「巻き始めの速さ」を実現する事ができるようになりました。
「マグナムライトシリーズ」とは?

また新しいシリーズ名が出てきてしまいましたね。2016年にリリースした「NEWマグナムライトローター」というものを搭載しているリールを、「マグナムライトシリーズ」と呼びます。混乱を避けるために説明をすると「マグナムライトシリーズ」は「クイックレスポンスシリーズ」と同じものだと思ってください。最近のクイックレスポンスシリーズにはNEWマグナムライトローターが使われているからです。このローターの特筆すべき点は、軽さだけでなくローターの形を左右非対称に設計している事です。物理的に、回転するものが左右非対称であると重心が定まらないため、回転の持続を抑える事ができます。回転するコマに触れるとすぐに止まってしまうのは重心がずれるからですね。このように、敢えてローターを左右非対称に設計することで、回転を持続させないようにしたのが、このNEWマグナムライトローターです。回転が持続しないという事は、巻き続けなければならない反面、リールのリトリーブ(巻くこと)を簡単に急停止することができるので、俊敏な動きが可能になります。正にクイックレスポンスのために開発されたローターですね。
コアソリッドだって負けてない
このように聞くと、クイックレスポンスの方が優れているように思いますが、実はローターが重い方が良い場合があります。それが「大きい魚を狙う釣り」です。ローターに重量があると、回転力を持続させようとする慣性の法則が働きます。つまり、回転が一定の速度に達すると、それほど力を入れずに勝手に回ってくれるようになるのです。それにより、巻き疲れを軽減するだけで無く、リールの回転が滑らかになり、大型魚を掛けても、円滑なやりとりが可能となります。コアソリッドシリーズは自動車にも使われるような「高強度樹脂」と呼ばれる堅い素材や、金属製(マグネシウム・アルミ)素材をローターに採用する事で重量と強度を増やしています。ちなみに、2020年リニューアルされた20ツインパワーは、高強度樹脂だったローターを金属製に変更した事で話題になりました。ローターの重量が増した事で、滑らかな巻き心地と剛性を手に入れました。現在金属製のローターを搭載しているシマノのリールは、20ツインパワーとステラのみという事になります。
2021年現在で定義されているそれぞれのシリーズ
リールのブランドによって、「コアソリッド」と「クリックレスポンス」は明確に定義され、分けられています。ここでは各シリーズに当てはまるリールブランドの種類を紹介します。
コアソリッドシリーズのリール一覧
コアソリッドシリーズのリールは、ローターの素材を高強度樹脂や金属素材にする事で、敢えて重くしているという特徴があります。※()内はローターの素材です。
- 18ステラ(金属製ローター)
- 20ツインパワー(金属製ローター)
- 19ストラディック(高強度樹脂製ローター)
- 21アルテグラ(高強度樹脂製ローター)
- 18セフィアBB(高強度樹脂製ローター)
- 18ソアレBB(高強度樹脂製ローター)
クイックレスポンスシリーズのリール一覧
クイックレスポンスシリーズのリールは、ローターの素材にカーボンを混ぜた「Ci4+」 を使用する事で、軽さを追求しているリールになります。
- 19ヴァンキッシュ
- 21ツインパワーXD
- 17セフィアCi4+
- 19セフィアSS
- 16ストラディックCi4+
- 21エクスセンス
- 18エクスセンスCi4+
- 15BB-X RINKAI SP
- 17BB-X ハイパーフォース
- 18カーディフCi4+
各シリーズの代表的なリール
永遠の与党:コアソリッド党代表「ステラ」

シマノの最上位モデルであるステラは、正に与党の党代表。シマノ王国の内閣総理大臣といっても過言ではありません。1992年の誕生から現在に至るまで、数多くの釣り人から絶大な支持率を誇っています。
野党の新星:クイックレスポンス党代表「ヴァンキッシュ」

初代クイックレスポンスを襲名されたリールというだけの事もあり、現在においても揺るぎない地位を築いているのが、このヴァンキッシュです。価格以上のそのクオリティーは、シマノマニアの釣り人達から絶大な人気を誇っています。正にシマノの二大巨塔を担う、現在急成長中のリールです。
コアソリッドの生き残りをかけた争い
様々な情報をみていると、「クイックレスポンス」の方が多くの釣り人に支持をされている印象があります。シマノ自身も公式ページに、クイックレスポンスの特設ページを用意しているくらい力を注いでいますし、競合であるダイワに至っては、コアソリッドのような概念すら無く、「エアローター」と呼ばれる、軽い巻き心地を追求するローターの開発のみに絞っているくらいです。それにも関わらず「コアソリッド」というシリーズが未だ残っているのはなぜでしょうか。
ブランド戦略がある
実はこういった技術の違いは、各リールのブランディングに大きく関わってきます。例えば、シマノの最高峰リール「ステラ」にしか搭載されていない技術を、他のブランドにも反映させることは、大きな反響になります。「あのステラに搭載されている技術がこのリールにも!」というような感じです。そのためステラの代名詞ともいえる「コアソリッド」という概念は大切に守り続けなければならないというメーカー側の意図が考えられます。
反対意見も多い
クイックレスポンスの方が人気の理由として、コアソリッドが重宝される釣りのシーンが少ないという背景が考えられます。ブリやヒラマサなどの大型魚のみを狙う一部の釣り人を除き、殆どの釣りにおいてはリールの俊敏さが求められるため、クイックレスポンスの方が人気なのです。それにより、ブランド戦略によって生き残っているコアソリッドは、様々な釣り人を困惑させています。例えば、「今までクイックレスポンスであったアルテグラが、17アルテグラからコアソリッドになってしまった事」により、シマノからダイワに切り替えるといったユーザーも現れる事態となりました。こういったシマノのコアソリッド化については、今でも多くの反対意見が飛び交っているようです。
選ぶ楽しみという考え方
そんな中でも「釣り人に選択肢を与えるという楽しみを提供している」といったポジティブな意見もあったりします。高級感のある重めの巻き心地は、コアソリッドファンの心をくすぐり続けているというのも事実です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。このローターの違いによる巻き心地というのは、釣りをした事が無い人でも感じ取れる、分かりやすい技術の違いでもあります。機会があれば是非手に取ってその違いを実感してみてください。これを機に、釣り仲間とこの二大巨塔について熱く語らってみるのはいかがでしょうか。クイックレスポンス寄りの記事になってしまいましたが、コアソリッド押しの人の意見を聞くのもとても楽しいですよ。