
メジナ(グレ)と並び、磯釣りの大人気ターゲットであるクロダイ(チヌ)は、同じ場所で同じ釣り方で釣れるイメージを持たれている方が多いかも知れません。確かに地磯や沖磯ではメジナ狙いの人がクロダイを釣り上げたり、クロダイ狙いの人にメジナがかかるというようなことはよくあります。
しかしそれは磯で釣りをしているからそうなるのであって、例えばサーフでメジナはほとんど釣れませんし、塩分濃度が低い河口などの汽水域でもメジナは釣れません。クロダイはどちらでも釣れます。これは、クロダイの棲息域が広いためこういうことが起こるだけであって、メジナとクロダイには共通点は殆どありません。分類学上もメジナ(スズキ目イスズミ科)とクロダイ(スズキ目タイ科)と違いますし、生息域も食性も適水温も異なります。
今回は、そんなクロダイの生態を確認しながら、メジナとの適水温、水深、食性、狙い方の違いなどについて説明して行きます。
クロダイの生態

クロダイは、北海道南部から南シナ海まで、アジア沿岸海域に広く分布しています。かつては「スズキ目タイ科」に分類されていましたが、最近の分類ではタイ科はイトヨリダイ科、フエフキダイ科、シキシマハナダイ科、キス科、マツカサダイ科で構成される「タイ目」に分類されるようになりました。
クロダイは「タイ目タイ科」の魚でありながら、その生態は他のタイ科の魚とはかなり異なります。
浅場に多く棲息する

マダイ、チダイ、レンコダイなど、幼魚を除き、基本的に沖合の深場に棲息するタイ科の魚の中で、クロダイは水深50m以下の浅場を主な棲み処としています。外洋に面した沖磯から沿岸の地磯、サーフ、湾奥の止水域、塩分濃度の低い河口の汽水域、時には餌を求めて純淡水域へも入ります。そのため、日本の沿岸では「どこでも釣れる」魚といえるでしょう。
だからといって、簡単に釣れる魚ではなく、神出鬼没でミステリアスというところがこの釣りの中毒性の高いところなのかもしれません。
性転換する

クロダイに限った話ではありませんが、タイ科、ベラ科、ハタ科など、魚の中には成長するにつれ性転換するものが多くみられます。これは繁殖上の重要な戦略と考えられています。精子を持つ個体よりも、お腹の中にたくさんの卵を抱えるメスの方が体力を消耗するため、身体の大きい個体がメスになり、たくさんの卵を産むことができれば子孫をより多く残すことができるという戦略です。自然の神秘としか言いようがありません!
生まれた時はオスで、成長に伴いメスに性転換するものを「雄性先熟」といい、逆に生まれた時がメスで、成長に伴いオスに変わるものを「雌性先熟」といいます。クロダイは雄性先熟で、体長10cm程度の若魚のほとんどがオスとして成長し、生後2年程度、体長20cm程度では雌雄同体、生後3年程度、体長が30cmを超えるあたりから健康な個体のメス化(精巣の退化)が始まり、4~5年目、体長40cm程度でほとんどがメスになります。しかし、成長が著しく遅い個体は逆に卵巣が退化し、オス化して60cm級のサイズに成長する個体もあります。
悪食でなんでも食う

クロダイは適水温、適水質の幅が広く、非常に生命力の強い魚とされています。その生命力を支える要因として食性が考えられます。クロダイは雑食性で、植物性、動物性にかかわらず、口に入るものは何でも食べるという性質があります。そのため、一年中餌に困ることがないといわれています。藻類、環虫類、甲殻類、魚類、貝類、昆虫、果物、穀物に至るまで、ありとあらゆるものを食べるため、数が増えると海苔棚や牡蠣棚などが食い荒らされ、深刻な被害を被ることもあり、栽培漁業者からは厄介者とされています。
上の写真は、ある場所の船着き場の脚に着生していた牡蠣を殻ごとバリバリ食べていたクロダイです。クロダイの口の中には、鋭くはないものの非常に硬く頑丈な歯が不規則に数列生えていて、貝殻などの硬いものは強力な顎で砕き、中身を食べることができます。このように餌があればどこにでも捕食に行き、ベイトを追って川の中に入り、純淡水域まで遡上することもあります。こういった食性が故、プラスチックごみなども食べてしまい、死んでしまう個体も多いと聞きます。
クロダイ釣りのベストシーズンとは?
クロダイは前述のとおり、適水温がメジナなど他の磯上物よりも広く、通年釣りを楽しめる魚ではありますが、特に面白いシーズンは年2回あります。それは、「乗っ込みシーズン」と、「厳寒期の寒チヌ」です。それぞれ、釣り方が少し異なりますので、違いを見ていきたいと思います。
乗っ込みシーズン(13℃~18℃)

まず、最もクロダイ釣りが盛んに行われるのが、春先から初夏にかけての「乗っ込み」と呼ばれるシーズンです。この時期はクロダイの産卵時期で、産卵前に体力をつけるため、産卵場所である浅場の藻場などに群れて接岸し、荒食いを始めます。この時期のメスの個体は、餌を求めて積極的に泳ぎ回るため、泳層に関係なく仕留めることが可能です。高活性なため、良型が釣れるチャンスが最も大きい時期となります。
特に3月上旬頃の春先はまだまだ水温が低く、風が強く荒れ気味のコンディションの日が多いため、ほとんどの魚は活性が上がっていないでしょうが、クロダイは適水温のレンジが広く、10℃以上あれば十分釣りになります。こうした低水温時は餌取りの猛攻に苦しめられることも少なく、じっくりクロダイだけを狙うことが可能です。そして、水が温んでくる4月~5月にかけては非常に活性が高くなってきます(当然、餌取りも増えてきますが)。
大事なことは、コマセを少しずつ絶え間なく撒き、接岸してきたクロダイを、自分の釣り座周辺に足止めにしておくことです。メジナ用のコマセとは異なる配合で、比重高め、拡散性よりその場で素早く沈む設定が理想です。メジナはゆっくり沈んでくる餌を下から見ていて、狙いを定めたら一気に浮き上がり、捕食して素早く元の泳層へ潜る性質がありりますが、乗っ込みシーズンのクロダイはボトムからトップまで、視界に入った餌を貪欲に捕食しますので、どのレンジで食ってくるかわかりません。基本は中層からボトムにかけてを探りますが、状況によってはトップ付近も狙うことも想定して攻略しましょう。
厳寒期(10℃以下)

水温が10℃を切るような厳寒期は、他の魚同様、クロダイも活性が下がるため、釣りにくくはなります。ただし、全く釣れなくなるということはありません。厳寒期のクロダイは、寒チヌと呼ばれ、活性は非常に低いものの、大型で食味の良い個体が釣れることが少なくないため、好んで寒チヌ狙いをする人も多いです。同じく厳寒期に大型のメジナを狙う寒グレ釣りも人気ですが、メジナは12℃を切るくらいから極端に難しくなり、水温が一桁になってしまったらほぼ絶望的といっても過言ではないくらいタフな釣りになります。
生態の項で、クロダイは悪食でなんでも食うと書きましたが、厳寒期はメジナ同様、やや食性が変わってきます。レギュラーシーズンでは定番のオキアミは厳寒期は食いが悪く、釣れないということが多くなってきます。寒グレ同様、藻食傾向が強くなったり、コーンや練り餌など、植物性の嗜好が強くなるようです。
クロダイ釣りでは食いが渋いときの特効餌であるボケ(スナモグリ)、餌取り対策で多用するサナギのうち小型で柔らかいもの、脱皮直後の柔らかいカニ(ソフトシェル)なども厳寒期のクロダイには有効です(どれも入手性に難がありますが)。

また、コマセにはオキアミに加え、アミエビを添加するとクロダイの集魚効果が上がります(他のシーズンはアミエビを混ぜるとエサ取りを爆寄せしてしまうので注意)。私は厳寒期はメインの配合コマセには青海苔を配合した、緑色のものを多用しています。コマセを撒く量は、通常より少な目で問題ありません。多く撒き過ぎると活性の低いクロダイは目の前を漂うコマセだけを少量食って満足し、刺し餌を食わなくなってしまいます。
狙うタナはボトム一本です。活性が下がっているクロダイは、乗っ込みシーズンとは違い、餌を求めて泳ぎ回ることはせず、藻場や岩の間などに身を潜め、自分の鼻先を漂う最低限の餌を捕食しています。ネチネチと海底ギリギリに食わせエサを這わせましょう。
温排水口の周辺はチャンスゾーン!

磯では難しいのですが、内湾の工業地帯などで厳寒期にクロダイを狙う場合は、「周囲より水温が高いエリアを探す」ことが勝利への絶対条件といえます。海に面している工場は、設備の冷却のために取水した海水を、再び海へ放流するために復水器内で温度を調整した後、排水口から放流している場所があります。こういう温排水口周辺は、業種により異なりますが、海水温より7℃~20℃程度高い水が排水されるため、様々な魚が集まるスポットが形成されます。製鉄所、発電所、製油所などが海水を冷却水として大量に使っています。神奈川県横須賀市の東京電力横須賀火力発電所や、横浜市のJ-POWER 磯子火力発電所の周辺は、温排水の影響が及ぶエリアでクロダイを狙うアングラーが多くいます。
周囲より温度が高いエリアというのは当然磯でも有効ですので、日光が当たり周囲よりわずかながら水温が高い場所や、海水温より高い温度の河川水が流入する場所などを探るというのは有効です。磯であれば水深のあるワンドの奥などを丹念に攻めるとチャンスが生まれるかも知れません。
真夏のクロダイ釣り(25℃以上)

真夏のクロダイ釣りはフカセ釣りよりもヘチでの落とし込み釣りに軍配が上がります。もちろん真夏の磯でのフカセ釣りでもクロダイはたくさん釣れますが、コマセを使うフカセ釣りではあまりにもエサ取りが多いため、非常にタフな釣りとなります。
フグ、ベラ、ウリ坊(イサキの幼魚)、小サバ、稚鮎、ボラなどが、仕掛けが着水したそばから刺し餌を奪って行きます。猛暑も年々酷くなっていますので、真夏の日中は無理に釣りに出なくても・・・・。という気分にさせられます。どうしてもフカセ釣りでクロダイを狙いたいなら夕まづめ狙いの短時間勝負が良いでしょう。
クロダイは高温域は30℃くらいまで高活性で全層を泳ぎ回っています。餌取りの猛攻に辟易してしまう場合は、刺し餌をサナギやコーン、砂糖漬けにしたスイカなど、クロダイだけに効く餌を使うと良いでしょう。
それよりも、和竿にタイコリールを取り付け、ランディングネットを背中に背負ってヘチ際に丁寧にカニやムラサキイガイを落とし、夕まづめ勝負の短時間ランガンでクロダイを狙う、或いはルアーで狙うチニングの方が効率がいいですね。
クロダイが増えている!?
私はここ数年(3年くらい)、釣りは地磯でのメジナ、クロダイ狙いのフカセ釣りに特化しています。クロダイのフカセ釣り自体は中学生の頃からやっているので、都合40年以上やっているのですが、明らかに「クロダイが増えている」と感じます。メジナは昔も今もあまり数は変わらないんじゃないかと思いますが、クロダイは確実に増えています。
中学生、高校生の頃、自分のメインターゲットはいつもクロダイでした。しかし、何十回、何百回チャレンジしてもクロダイは釣れませんでした。当時の自分に知恵も技術もなかったことが理由なのでしょうが、周りでクロダイを釣る人もあまり見かけなかったような気がします。そのため、クロダイは「幻の魚」くらい難しいターゲットと認識していました。何度チャレンジしても釣れるのはフグ、ベラ、ウミタナゴ、カサゴ、カワハギでした。たまに良型のメジナが釣れることはあっても、クロダイは中高生の頃は釣った記憶がありません。初めてクロダイを釣ったのは大学時代、今から35年ほど前、50ccバイクを飛ばして行った、横浜市金沢区の富岡新堤(現在は立入禁止)でした。
現在はメジナをメインターゲットにすることの方が多いのですが、狙ってなくても2回に1回くらいクロダイが釣れます(メジナ狙いの軽量仕掛けです)。地球温暖化による海水温の上昇が進み、暖海性魚の版図が広がり、これまで釣れることがなかった魚が釣れるようになっています。
キチヌ(キビレ)が増えている!?

私の地元である神奈川県では、クロダイの近縁種であるキチヌ(キビレ)が増えています。写真上がクロダイ、下がキチヌです。キチヌは各ヒレの先端が黄色く染まっているので容易に区別ができます。キチヌはもともと房総半島以西の汽水域に広く分布する魚で、完全海水域では生息できないとされているのですが、大阪湾などに多く棲息し、関東では河口域などで比較的に棲息していました。しかし、黒潮の大蛇行が関係しているのかどうかわかりませんが、ここ数年で東京湾、相模湾も大変増えていると実感しています。
もともと分布域が異なっていた近縁種が同居するようになると、交雑種が出てきます。現時点ではクロダイとキチヌの自然交雑種は存在しないと言われていますが、将来も交雑種が出て来ないという保証はありません。交雑種が出てくると、交雑を重ねるうちに在来種の繁殖能力が低下し、種の保存に少なからず影響が出てきます。そうならないように、クロダイとキチヌの適水質や産卵時期が異なっていると現在は考えられています。しかし、こればかりは「神のみぞ知る」ですね。
まずは乗っ込み狙いからクロダイ釣りをはじめよう!

いかがでしたでしょうか? クロダイは一年中狙えるターゲットであり、そのフォルム、引き味、神出鬼没な性格などから、磯上物の一番人気のターゲットといっても過言ではないでしょう。最も釣れる確率が高いのは、やはり乗っ込みシーズンです。最も浅場へ接岸し、高活性の個体が多い時期です。この時期を逃す手はありません。お腹がパンパンの乗っ込みクロダイはパワーもあり、一度ファイトを味わったらクロダイ釣りの沼にどっぷりハマること間違いありません。そして、味を占めたら是非とも極寒の60㎝一発ドカン、寒チヌとの勝負に挑んでみてください。こんな記事書いている私も60cmなんて一度も釣ったことはないのですが。私の永遠の目標です。

